信州大王イワナ開発ストーリー
「信州大王イワナ」は、刺し身でも食べられるイワナ。白く透き通り、クセがなく、優しい味わいが特徴です。「信州サーモン」に次ぐ、長野県の新たなブランド魚の一つとして誕生するまでの経緯を、水産試験場木曽試験地 熊川真二地長(当時)に伺いました。
もう一つの“信州ブランド魚”を
信州サーモンが水産庁の承認を得たのは平成16年のことです。その後、PRの効果もあってか出荷量が順調に増えていく中で、「新たな魚の開発を」という要望も上がるようになってきました。もともと、観光客向けに提供できる、長野県ならではの魚として開発されたのが信州サーモンでしたが、それ一つだけでは物足りない、と。確かに、1種類だけでは刺し身も寂しいですし、長期滞在の人に対してはもう少しバリエーションが欲しいですよね。
また、信州サーモンは平場で水温が12、3度のところで育つので、もう少し標高が高くて水温が低いところでも育つような魚をという声が、生産者からありました。そこで新たなブランド魚の開発について検討を始めました。事前段階でアンケートを取ると、ヤマメなども挙がりましたが、やはり川の上流、最も奥にいるイメージがあるイワナが長野県の特徴を出すにも最適だろうということになりました。
いくつものハードルを越え、世に出していくことがゴール
通常、染色体を2組持つ2倍体のイワナを、3倍体にすることで卵を生まなくなり、産卵期を迎える秋でも痩せることなく、一年を通じて味が落ちなくなります。開発に取り組み始めたのは平成20年。宮城県が実用化したイワナの3倍体をつくる技術をベースにしましたが、最初はなかなかうまくいきませんでした。水温が違うためか、同じ条件でも非常に作出率が悪かったんです。そこで、長野県で最適化できるように試行錯誤しながら、条件を探っていきました。
やはり、安定して増殖できるようにするところまで持っていくことには苦労しましたね。どうしてもバラつきが出てくるので、生産工程の見直しなどをすることで、効率よくできる方法を確立するまでに時間がかかりました。生産レベルまで持っていく、最後の微調整のところですね。研究段階は100粒、200粒で始めますが、最終的に出荷、ということになれば1万粒、3万粒と単位が変わってきます。そうすると道具も違うし、温度設定も再現ができなくなることもあります。世の中に出ていくまでには、いくつもの段階があり、一つ一つクリアしていかなければならないのは大変です。でも、そのハードルを越えなければいけないですから。
信州大王イワナは、ふ化から3年で体重1キロ、体長45センチを超えるくらい、通常のイワナの倍ほどの大きさになります。信州サーモンの赤と、信州大王イワナの白、2種類で彩り豊かな「紅白」の刺し身もできます。今後、安定供給に努め、多くの方に食べていただきたいですね。
信州サーモンと信州大王イワナの「紅白」のお刺身